
謎16「なぜガラス戸に映るフクベエの顔がのっぺらぼうになったのか!?」
私は謎15で、〔鏡などに映る顔をのっぺらぼうにしたのはカツマタ=サダキヨBだ〕と述べた。
ところが、フクベエがガラス戸に映るのっぺらぼうを見た時には、サダキヨBは近くにいなかった(16巻第2話)。なぜサダキヨBが近くにいなかったのに、ガラス戸に映ったフクベエの顔はのっぺらぼうになっていたのか。
フクベエがガラス戸に映るのっぺらぼうを見た時には心の中は嘘でいっぱいだった
これを解く第一の鍵は、〔フクベエがガラス戸に映る自分の顔を見た時、フクベエの心の中の嘘が記されている〕ということである。
その嘘の内容は、〔今年の夏休み、僕は東京にいちゃいけないんだよ。毎日、万博に通ってることになってるんだ。〕というものである。この嘘が記された直後、ガラス戸に映るフクベエはのっぺらぼうになった。
ガラス戸に映るフクベエの顔がのっぺらぼうになった時を除けば、のっぺらぼうが鏡に映る時は常にサダキヨBが近くにいる。一方、ガラス戸に映るフクベエの顔がのっぺらぼうになった時には、サダキヨBは近くにいないが、そのかわりに、〔フクベエの心の中には嘘がある〕ことが明記されている。
第二の鍵は、〔サダキヨAは、フクベエに仮面を貸すことに強い抵抗を示した〕(16巻第2話)ということである。
サダキヨAがフクベエの家に来た時、フクベエはサダキヨAに「おまえのお面、貸せよ。」と言った。
その時、サダキヨAは「え……?」と言い、まゆをしかめ、困惑の表情を示した。そして、「な…なんで…?」と言う。そのことばと表情から、〔いやだな〕とか〔困ったな〕という感じが読みとれる。
フクベエは、「今年の夏休み、僕は東京にいちゃいけないんだよ。」などの理由を言う。
サダキヨAの表情はさらに困惑の度を深める。
それを見たフクベエは「なんだよ、その目は。」と問詰する。
サダキヨAは目線を斜め下にして、今にも泣きそうな顔になる。
フクベエはさらに言う、「僕がこの夏休み、東京にいることを隠しとおすことができたら、本当の友達って認めてやるよ。」
普通に考えれば、いじめられているサダキヨAがフクベエから〔本当の友達って認めてやるよ〕と言われれば、大いに喜びそうなものだが、実際には表情が少しやわらいだだけである。そして、少し下を向き、困惑しながらも考えているようすがうかがえる。そして、
「わかったよ、お面…… 貸すよ……」と言うが、なおも、困った表情で、
「でも、何をするの……?」とたずねる。
私は、このサダキヨAのことばと表情に疑問を感じる。たかが仮面を貸すだけのことではないか。それも一時的に。いくら愛用の仮面だといっても、それをフクベエに貸して特に困ることはないだろうに。逆に得られるものは大きい。うまくいけば、フクベエはサダキヨAを〔本当の友達〕と認めてくれるのである。いじめられているサダキヨAからすれば、〔愛用の仮面を貸すマイナス〕と〔本当の友達と認めてくれるプラス〕とをはかりにかければ、〔仮面を貸して、本当の友達と認めてもらう〕方が良いに決まってるではないか。
それなのに、なぜ、サダキヨAは、フクベエに仮面を貸すことに強い抵抗を示したのだろうか。
第三の鍵は、フクベエがガラス戸に映るのっぺらぼうを見た直後にサダキヨBがフクベエ宅に来たことである。
サダキヨA(サダキヨ本人)については、フクベエの自宅に来るほどにフクベエと密接になった経緯は記されている。だが、〔サダキヨB(サダキヨ本人にそっくりだが、実はカツマタが変面している)は、以前からフクベエと親しかった〕とは記されていない。
にもかかわらず、サダキヨB=カツマタはフクベエ宅に来た。それも、わざわざサダキヨ本人(サダキヨA)の顔に変面して、である。
なぜ、サダキヨB=カツマタは、フクベエがのっぺらぼうを見た直後にフクベエ宅に来たのだろうか。
サダキヨAから借りた仮面をはずした時に嘘をついていたらのっぺらぼうが映る
これら三つの鍵を用いて謎を解こう。
第一の鍵から次のように推察できる。
サダキヨBが鏡の近くにいれば、サダキヨBがその場で超能力を使って鏡に映る人の姿をのっぺらぼうにすることができる。サダキヨBが近くにいなくても、心の中が嘘でいっぱいの人が、サダキヨAから強引に借りた仮面をはずして鏡などを見ると、自分の顔がのっぺらぼうになって映る。
第二の鍵から次のように推察できる。
サダキヨAは、〔心の中が嘘でいっぱいの人が、この仮面をはずして鏡などを見ると、自分の顔がのっぺらぼうになって映る〕ということを知っていた。また、フクベエが〔今年の夏休み、僕は東京にいちゃいけないんだよ。毎日、万博に通ってることになってるんだ。〕という嘘をつきとおそうとしていることを知っていた。だから、サダキヨAの心は次のようなものであっただろう。
〔もしこの仮面をフクベエに貸したら、フクベエの心の中は嘘でいっぱいだから、フクベエは のっぺらぼうを見る可能性が高い。その時のフクベエの驚きと恐怖はどんなに大きいことか。この仮面を貸すことはフクベエに災いをもたらす。この仮面をフクベエに貸すことはできない。〕
だから、サダキヨAは仮面をフクベエに貸すことをいやがったのである。〔愛用の仮面だから貸すのをいやがった〕のではない。
第三の鍵から次のように推察できる。
サダキヨB=カツマタは、サダキヨAから〔仮面をフクベエに貸した〕と聞いた。それで、〔自分の超能力のために、フクベエがのっぺらぼうを見て恐怖におののくことになってはいけない。フクベエがのっぺらぼうを見る前にフクベエから仮面を返してもらおう〕と思って、急いでフクベエ宅に来た──。
サダキヨAがフクベエに仮面を貸すのをいやがったのも、サダキヨB=カツマタがフクベエ宅に来たのも、〔フクベエがのっぺらぼうを見るのを避けよう〕という善意によるものだったのである。
残る問題は、なぜ〔心の中が嘘でいっぱいの人が、この仮面をはずして鏡などを見ると、自分の顔がのっぺらぼうになって映る〕というような設定になっているのか、ということである。
これは、〔サダキヨAがいじめられている〕といことに関係していると思われる。
謎7に述べたように、サダキヨAとサダキヨBは親密な間柄である。そして、サダキヨAはいじめられており、しかも仮面をしている。そうすると、いじめっ子がサダキヨAの仮面を取ったり、強引に借りたりするかもしれない。
そこで、サダキヨB=カツマタは変面超能力を応用して、次のような設定をした。
サダキヨAから仮面を取ったり、強引に借りたりした人の心が嘘でいっぱいなら、鏡などを見た時に自分の姿がのっぺらぼうになって映る(ただし、カツマタがその人の近くにいる時は、カツマタの裁量で、のっぺらぼうを映したり、映さなかったりすることがある)。
このように、サダキヨBは、サダキヨAのために良かれと思って、〔サダキヨAから仮面を取ったり、強引に借りたりした人の心が嘘でいっぱいなら、鏡などを見た時に自分の姿がのっぺらぼうになって映る〕ようにした。
だが、〔フクベエがサダキヨAから強引に仮面を借りる〕という想定外のことが起きた。しかも、フクベエは〔今年の夏休み、僕は東京にいちゃいけないんだよ。毎日、万博に通ってることになってるんだ。〕という嘘をつきとおそうとしていた。このため、フクベエはガラス戸に映ったのっぺらぼうを見ることになってしまったのである。
サダキヨB=カツマタ=ともだちBの素顔は?
これまで私は、カツマタ=サダキヨB=ともだちBについてさまざまな角度から説明してきた。このカツマタは〔自分はカツマタだ〕という形ではほとんど登場しないが、フクベエの死後には地球を滅ぼそうとする〔悪の主人公〕なのである。そのカツマタの〔素顔〕はどのようなものだろうか。
本作をよく読むと、小学生時代のカツマタの〔素顔〕が描かれている。そのことは謎17に述べよう。

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