
謎4「理科室五人目は誰か」
謎4では、理科室五人目は誰かということについて述べたいのだが、そのためには、
“ともだち”は二人いる
ということを述べておく必要がある。
フクベエたる“ともだち”は二〇一五年に死んだ
フクベエは、「僕はフクベエでもなければハットリでもない。僕はただの“ともだち”だ。」(16巻第1話)と宣言している。大人になった“ともだち”は巨大な組織を作り上げ、その統率者として絶大な権力を握る。
12巻第11話、第12話によれば、“ともだち”は、二〇一五年元日の夜に、理科室でヤマネに銃で撃たれる。
この“ともだち”がフクベエであることは、13巻第2話に記されているように、オッチョが確認している。また18巻第11話で、オッチョは、「お面をはずした遺体の顔は間違いなく、服部だった。」と言うし、“ともだち”の腹心の部下だった万丈目も「あれは、服部の死体だった。」と言う。ヤマネに殺された“ともだち”はフクベエ(本来の苗字は服部)なのである。
フクベエ死後にも“ともだち”がいる
ところが、死んだはずの“ともだち”が動き始める。
15巻第4話79ページでは、棺の中にいる“ともだち”は近くに来た少年ヤックンの手をつかんだ。さらに、15巻第11話によれば、ローマ法王が“ともだち”の棺のところに来て弔辞を述べ始めた時、“ともだち”は棺から出て法王に向かって歩き出した。
フクベエ死後に動く“ともだち”が、フクベエと同一人物であるはずがない。
ヤマネに銃撃された後の“ともだち”がフクベエでないことは、次のことからも解る。
18巻第11話によれば、ヤマネに銃撃された後の“ともだち”は「フクベエだったらどうしただろう…………」とつぶやいた。
また、19巻第1話によれば、ヤマネに銃撃された後の“ともだち”は「フクベエならすでに実行に移しているはずなんだ。人類滅亡計画。」と言った。
また、22巻第12話によれば、ヤマネに銃撃された後の“ともだち”は「僕はフクベエのこと、よーく知ってるんだ。」と言った。
仮に、〔フクベエと同一人物たる“ともだち”はヤマネに銃撃されても死ななかった。ローマ法王と対面して以後の“ともだち”もフクベエだ〕としよう。それなら、その“ともだち”が「フクベエだったらどうしただろう…………」とか、「フクベエならすでに実行に移しているはずなんだ。」とか、「僕はフクベエのこと、よーく知ってるんだ。」などと、自分のことを他人のように言っていることになる。これは矛盾である。よって、
“ともだち”は二人いる
とせねばならない。
ともだちA、ともだちBと呼び分ける
以下、フクベエと同一人物たる“ともだち”を ともだちA と呼ぼう。また、ヤマネに銃で撃ち殺された後に動く“ともだち”を ともだちB と呼ぼう。
もう少し具体的に言うと次のようである(同一人物関係を=で表す)。
ともだちA=フクベエは、二〇一五年元日の夜に理科室でヤマネに銃で撃ち殺された。
フクベエの死後に活動する“ともだち”は、ともだちBである。棺から出てローマ法王に向かって歩き出したのは、ともだちBである。
フクベエの〔復活〕を失敗させた人物が描かれている
理科室五人目は誰かという問題に戻ろう。
14巻では、万丈目、ヨシツネ、小泉、カンナがヴァーチャルアトラクションに入り、理科室で首をロープで巻いて吊り下っているフクベエのところに集まる場面が描かれる。
そして、ともだちB(フクベエ死後のことだから、ともだちBである)も理科室に入ってくる。
ともだちBは「これが真実だ。」「おまえはここで死ぬんだ。」と言って、フクベエの足を引っ張る。フクベエは「く…… か……!! や… やめ…… やめ……」と声をしぼり出すが、今にも死にそうである。万丈目が、ともだちBの行動を止めに入るが、ともだちBは再び言う、「これが…… 真実だ。」
ここでは、フクベエの〔復活〕を失敗させた人物がはっきり描かれている。ともだちBである。ともだちBは、自分がフクベエの〔復活〕を失敗させたことをヨシツネたちに再演して見せた。そして、そのことについて、「これが……真実だ。」と明言しているのである。
私も言う。一九七一年、理科室で、
ともだちBは、フクベエの〔仕掛け〕に手を出し、フクベエが死にそうになるようにした。
これが真実だ。
(〔ともだちBはフクベエの足そのものを引っ張った〕ということが真実だというのではない。〔ともだちBは、フクベエの〔仕掛け〕に手を出し、フクベエが死にそうになるようにした〕という部分が真実である。)
理科室五人目はともだちB
私は謎3で、
理科室五人目は、フクベエの〔仕掛け〕に手を出し、フクベエが死にそうになるようにした、と述べた。
そして、この謎4で、
ともだちBは、フクベエの〔仕掛け〕に手を出し、フクベエが死にそうになるようにした、と述べた。
そうすると、
理科室五人目と、ともだちBは、
同じ時に同じ場所で同じ事をした
ということになる。
よって、次の結論が得られる。
理科室五人目は、ともだちBである。
ともだちBも 理科室五人目も たいへんすばやい
思えば、理科室五人目と、ともだちBには共通点がある。それは、
二人ともたいへんすばやい
ということである。
理科室五人目がたいへんすばやいことは謎2で述べた。ここでは、ともだちBがたいへんすばやいことを述べよう。
15巻第4話79ページでは、ともだちBが、棺の近くに登ってきた少年ヤックンの手をつかんだ。周囲には「坊や、降りるんだ!!」などと叫んでいる守衛がいるのに、ともだちBがヤックンの手をつかんだことに気付いていない。また、大勢の人々がともだちBの棺を見ているはずなのに、誰もそのことに気付いていない。それほど、ともだちBの動きはすばやかったのである。
14巻第5話によれば、高須は喫茶店の中からともだちBを見つけ、急いで追いかけるが、見失ってしまう。ともだちBの動きはたいへんすばやい。
14巻第7話によれば、ユキジは中華街でともだちBを見つけ、追いかけるが見失う。(そのともだちBの顔は15巻第4話65ページに描かれている。フクベエそっくりの顔だが、フクベエはすでに死んでいるから、これはともだちBである)
同じ第7話127ページで、オッチョはユキジに「信じられない人間を街で見かけて、ここまで追ってきた……おまえも見たのか。奴を……」と言うが、結局見失ってしまった。ユキジやオッチョの追跡を振り切るほど ともだちBはすばやいのである。
このように、理科室五人目と、ともだちBは、〔たいへんすばやい〕という点で共通している。このことも、理科室五人目がともだちBだということを裏付けている。
こうして、理科室五人目がともだちBであることがわかった。だが、ただちに新しい謎が生じる。
ともだちBの正体は何者なのか?
これは、『20世紀少年』の基本構造に深くかかわる、きわめて重要な謎である。解説するには多くの紙数が必要になる。ここでは、二つだけ言い添えておこう。
第一。上巻第1話を見れば、ともだちBは、〔フクベエの顔〕をしていることがわかる。
だが、私が望んでいるのは、
ともだちBは〔フクベエの顔〕をしている
というような答ではない。
第二。1巻第5話によれば、モンちゃんは理科室五人目について、「あともう一人…誰だっけ?」と言っている。だから、モンちゃんは理科室五人目=ともだちBの顔を、少しは見たのである。そして、モンちゃんは、「一人で夜の理科室に入る勇気なんかない。なにしろ、カツマタ君がバケて出て、フナの解剖してるんだから。」と言っている。仮に理科室五人目=ともだちBの顔が〔カツマタの顔〕なら、モンちゃんは、〔カツマタの顔〕をした少年と一緒に校内に入りながら、「カツマタ君がバケて出て」と言っていることになる。こんなことはありえない。よって、次のことが言える。
理科室五人目=ともだちBは、〔カツマタの顔〕をしていなかった。
だが、これも私が望んでいる答ではない。
私が問題にしているのは、理科室五人目=ともだちBの〔顔〕ではなく、理科室五人目=ともだちBの〔正体〕である。

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