
謎7「サダキヨ本人と〔サダキヨそっくりの少年〕はどんな間柄か!?」
サダキヨ本人と〔サダキヨそっくりの少年〕
謎1に述べたように、サダキヨ本人の他に、〔サダキヨそっくりの少年〕がいる。そのことを簡略に再述しよう。
16巻第1話に次の場面がある。
フクベエ(ハットリとも呼ばれる)はサダキヨに「友達になってあげてもいいよ。」「ただし、二度と僕の名前を呼ぶな。」「僕はフクベエでもなければハットリでもない。」「僕はただの“ともだち”だ。」と厳命した。この後、フクベエの厳命を守り、フクベエを“ともだち”と呼ぶのがサダキヨ本人である。
一方、16巻第3話には次の場面がある。
ある少年がフクベエ宅を訪れて、「ハットリく──ん」と呼んだ。フクベエが窓から見ると、それは〔サダキヨそっくりの少年〕である。フクベエが「なんでハットリって呼ぶんだよ。」と詰問すると、その少年は困惑して、「いや… あ…… ご…ごめんよフクベエ……」と言った。
フクベエは、サダキヨに〔二度と僕の名前を呼ぶな。」「僕はフクベエでもなければ、ハットリでもない。」と厳命した。にもかかわらず、〔サダキヨそっくりの少年〕はフクベエのことを「ハットリ」「フクベエ」と呼んだのである。
これはなぜか。
〔サダキヨそっくりの少年〕は、フクベエの厳命「二度と僕の名前を呼ぶな。」「僕はフクベエでもなければ、ハットリでもない。」を聞いたことがなかった。だから、〔サダキヨそっくりの少年〕はフクベエのことを「ハットリく──ん」「フクベエ」と呼んだのである。
サダキヨ本人と〔サダキヨそっくりの少年〕は、顔はそっくりだが別人なのである。
以下、サダキヨ本人をサダキヨAと呼び、〔サダキヨそっくりの少年〕をサダキヨBと呼ぶことにする(A・Bを省略することもある)。
フクベエの発案で、フクベエとサダキヨBは巨大なテルテル坊主を作り幽霊に見せかけようとする
サダキヨAはサダキヨ本人すなわち佐田清志その人である。では、サダキヨAとサダキヨBはどんな間柄なのか。
サダキヨBの行動を追っていこう。
16巻第3話に次の場面がある。
サダキヨBはフクベエに〔首吊り坂屋敷に幽霊が出る〕と告げる。二人は首吊り坂屋敷に出かける。こわがるサダキヨBに対して、フクベエは「幽霊なんていやしないさ。」と言う。フクベエの発案で、階段の中ほどに大きなテルテル坊主をつり下げて、幽霊に見せかけようとした。
夜に首吊り坂屋敷に来たのもサダキヨB
16巻第4話に次の場面がある。
深夜に、フクベエは、ケンヂ、オッチョ、ヨシツネ、モンちゃん、コンチたちとともに首吊り坂屋敷に行く。フクベエのことばによれば、「サダキヨはもう行ってるはずだ……」ということである。
階段の下まで来たとき、フクベエは心の中で言う、
「サダキヨ、うまくやれ。さっき電話で話したとおりにやるんだ。」「やれ、サダキヨ!! 動かすんだ、テルテル坊主を……!!」
だが、モンちゃんたちは、テルテル坊主を見て大笑いして、「ただのバカでかいテルテル坊主じゃないか。」などと言う。
その後、モンちゃん達は帰るが、オッチョは〔俺たちはちょっと上を見てくる〕と言ってケンヂと一緒に二階へ行く。しばらくして、ケンヂとオッチョは
「ギャアアア!! 出たあ!!」
と叫んで二階から走り降り、屋敷の外へ出る。そして二人は
「本物の幽霊見た!!」
と言う。
フクベエとサダキヨも屋敷の外へ走り出て、茂みに隠れる。フクベエは、ケンヂたちが「本物の幽霊見た!!」と言うのを聞いて、「僕も見たい。僕に見えないわけがない……」と言って屋敷の中に戻ろうとする。
サダキヨは「幽霊なんていないって言ってたじゃないか!!」と言って、フクベエを止めようとする。
さて、初めに首吊り坂屋敷に入る時、フクベエはサダキヨに「幽霊なんていやしないさ。」と言ったのだが、そのサダキヨはフクベエに〔首吊り坂屋敷に幽霊が出る〕と言ったサダキヨだから、サダキヨBである。
そして、深夜に首吊り坂屋敷に入る時、サダキヨはフクベエに「幽霊なんていないって言ってたじゃないか!!」と言ったが、これは初めに首吊り坂に入った時のフクベエのことば「幽霊なんていやしないさ。」を受けたものである。
だから、深夜に首吊り坂屋敷に入ったサダキヨは、初めに首吊り坂屋敷に入ったサダキヨと同一人物である。初めに首吊り坂屋敷に入ったサダキヨはサダキヨBだから、深夜に首吊り坂屋敷に入ったサダキヨもサダキヨBである。
サダキヨAとサダキヨBは円滑に意思疎通のできる間柄
私が注目したいのは、深夜に首吊り坂屋敷に入る前に、フクベエがサダキヨに電話していることである。
フクベエが電話したサダキヨはサダキヨAか、サダキヨBか。
フクベエは、サダキヨBの存在を知らない。フクベエは、〔サダキヨの顔をした人物はサダキヨ本人しかいない〕と思っている。だから、フクベエが電話をかけたのはサダキヨ本人すなわちサダキヨAに対してである。
それなら、サダキヨAが首吊り坂屋敷に来そうなものである。ところが、上に述べたように、実際に来たのはサダキヨBだった。
これはどうしたことか。
フクベエから電話で状況を聞いたサダキヨAは、そのことをサダキヨBに伝えたのである。そして、サダキヨBだけが首吊り坂屋敷に行くことになったのである。
このことから、次のことが言える。
サダキヨAとサダキヨBは円滑に意思疎通のできる間柄だ。
サダキヨBはサダキヨAの上ばきを履いてきた
16巻第5話79ページなどを見ると、サダキヨの上ばきは先端が塗り分けられている。その色について、9巻第1話のヴァーチャルアトラクションの中で、ヨシツネが小泉響子に次のように言っている。「僕、わかってんだ。」「あいつ、一学期に転校してきた奴だよ。僕らの上ばきはつま先が黄色なんだ。ゆうべのあいつは前の学校のまま緑色だったろ?」
ヴァーチャルアトラクションの中のことだから真実だという保証はない。だが、仮に真実だとすると、もしくは、作者の真意がこの場面に描かれているとすると、次のことが言える。
16巻第2話で、フクベエがサダキヨに「隣の学校でイジメにあって、今学期に僕らの学校に転校してきて、」と言っていることからわかるように、〔一学期に転校してきた奴〕というのはサダキヨ本人すなわちサダキヨAである。
一方、深夜に首吊り坂屋敷に来たサダキヨは、上述のように、サダキヨBである。そして、深夜に首吊り坂屋敷に来たサダキヨBは、〔前の学校〕の上ばき、すなわちサダキヨAの上ばきを履いていた。
ということは、
サダキヨBは、サダキヨAから〔フクベエ、ケンヂたちが夜に首吊り坂屋敷に行く〕と聞いて、サダキヨAから〔前の学校〕の上ばきを借りた
ということである。その周到さもたいしたものだが、注目したいのは次のことである。
サダキヨBはサダキヨAから前の学校の上ばきを借りられるほどに親しい間柄である。
私は、先に、〔サダキヨAとサダキヨBは円滑に意思疎通のできる間柄〕だと述べたが、ここでは、〔サダキヨBはサダキヨAから前の学校の上ばきを借りられるほどに親しい間柄〕だということがわかった。つまり、
サダキヨAとサダキヨBは親密な間柄である。
このことを用いれば、サダキヨBの正体に近づくことができる。そのことは謎8以下で述べよう。

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